昨日に引き続き快晴となった3日目、この日のつま恋にもBank Bandの心地いいサウンドが響いた。『ap bank fes』の始まりを告げる「よく来たね」のメロディが流れると会場は、前回の開催から5年という歳月を一気に縮めてつながっていく。「今年、このBank Bandとともに僕が歌う最後の曲になりました。〈最後の花火〉をみんなと見たいと思っています」と櫻井が言って披露したのは「若者のすべて」(フジファブリック)。『ap bank fes ’23』最後の一日が始まった。
M1. よく来たね M2. 緑の街 M3. 奏逢〜Bank Bandのテーマ〜 M4. 糸 M5. 若者のすべて
「最初にこのバンドの名前を知った時、どういうことだろう?って(笑)。ところが音を聴いてみるとものすごいいい音楽で、特に歌がめちゃうまいって思ってました。以前イベントで共演して、歌がうまいってだけじゃなくて、僕の中では尊敬するボーカリストに彼女の位置は変わりました」と最大限の賞賛をもって櫻井が呼び込んだのは緑黄色社会の長屋晴子。 「始まりの歌」で幕を開けた彼女のパフォーマンスは実に堂々としたものだった。華やかで、エネルギッシュで、それでいてどこまでも正確なピッチは野外でこそその実力が存分に発揮されていた。「さっき櫻井さんも言ってくださったように、イベントでご一緒する機会がありました。その時にね、私たちの曲で櫻井さんが好きだって言ってくれた曲があったの。もうすっごいうれしくて」。それが、2曲目に披露した、自身の母を想って歌詞を書いたという「想い人」だ。誰かを想うことから私たちの暮らしや良い社会というのができるのかもしれない、と彼女の歌を聴きながら思った。「『ap bank fes』の最高なところは音楽を楽しむっていうところが環境とか社会とか誰かを想うことにイコールになるっていうこと。つまり、今、ステージの私たちとみんながすべきことは、わずかな瞬間まで音楽を楽しむこと!」。ラストはヒット曲「Mela!」で会場がひとつになった。
M1. 始まりの歌 M2. 想い人 M3. Mela!
「『ap bank fes』始まって以来、レギュラーに近い出演者のひとりです」と小林武史が次に紹介したのは、KREVA。「音楽フェスで声が出せる日が戻ってきました。そこで、ミスチルみたいにみんなで歌えるような歌、俺は持ってない。じゃあどうしたらいい? 練習すればいいんですよ! こんなふうに」というMCに続いて流れたのは「Na Na Na」のフレーズ。会場を盛り上げるスキルはさすがだ。曲を知っていようが知っていまいが、のっけから全部もっていってしまう勢いだ。「暑っちいよ地球!と怒る気持ちと、我々人間がいろいろやった結果こうなってんじゃね?っていう両方の気持ちがあって。今までが全部間違ってるとは俺は思わない。けどじゃあここに来てるちっちゃい子たちが大きくなった時の夏フェスが全部40℃でいいのかって思うと、違うなって気もする。そんな、みんながわかってること、めちゃめちゃ当たり前のことだけど、それがメッセージになっている曲をやりたいと思います。タイトルは『変えられるのは未来だけ』」。MCもリリックも含めてKREVAの言葉はめちゃくちゃ聞き取りやすいし理解しやすい。当たり前のことを当たり前に言う、やる――未来につながるのはそのアティチュードしかないということを音楽ではっきりと示してくれた。最後に披露した「音色」がより沁みた。
M1. Na Na Na M2. 変えられるのは未来だけ M3. 音色
ここでBank Bandはすべての演奏を終えた。タイプの全く異なる豪華アーティストを迎え、ホストバンドとして『ap bank fes』の音を作っているのは、間違いなくBank Bandだ。それぞれが日本を代表するミュージシャンでありながら音の個性も確立されている彼らがひとつのものを作り上げる様は、ひとりひとりが違っているからこそひとつにまとまるとすごいものが出来上がるのだ、というメッセージをわかりやすく伝えてくれているような気がした。改めて、Bank Bandのいない『ap bank fes』なんてあり得ないと思った。小林武史 (Key) 、櫻井和寿 (Gt & Vo,Cho) 、小倉博和 (Gt) 、亀田誠治 (Ba) 、河村“カースケ”智康 (Dr) 、山本拓夫 (Sax,Flute) 、西村浩二 (Tp) 、四家卯大 (Cello) 、沖 祥子 (Violin) 、イシイモモコ (Cho) 、小田原ODY友洋 (Cho)の総勢11名のスーパーバンドにオーディエンスから惜しみない拍手が送られた。
3日目の[Individual Act]に登場したのは、MOROHA。ギターのUKとMCのアフロによる2人組だ。UKはいつものようにステージ上に設けられた台の上にあぐらで鎮座してのプレイ。そしてアフロは動きながらマイクに齧りつくような勢いで言葉を放っていく。リリックの切れ目ごとにオーディエンスから歓声が飛ぶ。1曲目「革命」の後のMCでアフロがぶっ放した。「とんでもない嘘ついていいですか? 今日は俺たちのワンマンライブにお集まりいただき、ありがとうございます!」。会場が沸く中、「あとで正式に謝っとくんで」という言葉にみんな笑顔になる。「どんな音楽を聴いたのか、じゃなくて、どんな人間に出会ったのか、覚えてもらうように一生懸命演奏しますので、どうぞよろしくお願いします!」。紡がれるある家族のストーリーとむき出しの言葉に涙を浮かべるオーディエンスもいた「ネクター」、〈よく来たね 大変だったんじゃない?〉とBank Bandの「よく来たね」の歌詞を最後にサンプリングして放った「主題歌」、そして「俺のがヤバイ」で『ap bank fes』との真剣勝負を見せてくれた。「さっき言った大嘘が本当になるように頑張ります!」と3万人のオーディエンスに約束してステージを去って行った。
M1. 革命 M2. ネクター M3. 主題歌 M4. 俺のがヤバイ
昨日に続いて登場したback number。会場に満ちた、待ってました感がもはやホームグラウンドのようだった。「アイラブユー」「SISTER」を続けてパフォーマンスした後のMCでは清水依与吏(Vo&Gt)が「昨日はここで、ただ単に『よろしくお願いします』だったんですけど、今日は『ようこそ』です。2日目ともなればもう運営側ですから」と言って余裕を漂わせつつ、すかさず次に披露したのは「クリスマスソング」。さらに「怪盗」「高嶺の花子さん」の切なくもダンサブルなグルーヴが会場を揺らしていく。「ap bankってやつは、なんかやっぱり大きなプロジェクトだし、実際小さくないことをたくさんやっているわけなんだけど、でもいろいろ自分で調べたり、こうやってフェスにも参加させてもらって感じるのは、単純に、命より大事なものなんてねぇんだよっていう本当にそのシンプルなことひとつなんじゃないかなって思うんだよね。だからこうしてずっと続いているし、カッコいいんだよね。俺らとしては今年初めて5大ドームツアーをやらせてもらって、その年の夏に、ただの後輩としていろんな音楽にワクワクしながらこのステージに上がれたことが夢みたいです。夢みたいだけど一生忘れないと思うんで」というMCに続いて「水平線」、ラストは「瞬き」を披露して、Mr.Childrenに音楽のバトンを渡した。
M1. アイラブユー M2. SISTER M3. クリスマスソング M4. 怪盗 M5. 高嶺の花子さん M6. 水平線 M7. 瞬き
3日目、最終日のMr.Childrenのライブにはサプライズが待っていた。「CROSS ROAD」「雨のち晴れ」「横断歩道を渡る人たち」「HOWL」「口がすべって」と、Bank Bandからメンバーを迎えながら、その前の2日間でもパフォーマンスした曲を披露した後に桜井がこんなことを言ってオーディエンスを驚かせた。「今日暑かったでしょ? みんなよく来たなって本気で思った。本気でありがとうって。そこまでしてこの会場に足を運んでくれた皆さんに、なんかできないかなって思いながら楽屋に入ったら、鈴木(Dr)くんが僕にこんなことを言ってきたんです。『今日暑いからさ、曲変えない?』」と、ここで会場から大きなどよめきが起こる。「みんなが喜ぶやつ。みんなが一緒に歌えたりするやつ、行くよ!」という桜井のMCに続いて鈴木がカウントを入れて流れたのは「HANABI」のイントロ。サビの〈もう一回 もう一回〉の大合唱は3日間で一番の音量だったのではないだろうか。さらに「名もなき詩」が流れると演奏に合わせてクラップが鳴らされる。「Your Song」でMr.Childrenの『ap bank fes ’23』全演奏を終えた。
M1. CROSS ROAD M2. 雨のち晴れ M3. 横断歩道を渡る人たち M4. HOWL M5. 口がすべって M6. HANABI M7. 名もなき詩 M8. Your Song
転換中にビジョンに映し出される「言葉のリレー」に小林武史のメッセージが流れた。人間には「共感する力」があるが、時としてそれが「線引き」となり、他者を排除したり攻撃したりする方向に作用してしまう。しかしその「線」をよく見てみたら、幾重にも重なっていることがわかるし、必要ではない「線」も見えてくるのだ、という言葉はとても心に響いた。我々は良い面とそうではない面、その両方を常にもっているのだということは、KREVAの言っていた通り、当たり前のことなのだ。でもだからこそ改めてきちんと認識しなければならない。
『ap bank fes ’23』もいよいよ終幕に近づいている。小林武史の鍵盤に合わせて櫻井和寿が「HERO」を歌った。「『ap bank fes ’23』最高でした! 本当にありがとう。2005年から始まった『ap bank fes』。始まった当初はこんなフェスになるとは思ってませんでした。たくさんの人がその年、その年に足を運んでくれて、みんながこのフェスを作ってくれてると思っています。本当にこのフェスを作っているのは皆さんです。皆さんを誇りに思っています。いつもありがとう」。櫻井の感謝の言葉にオーディエンスもあたたかい拍手で応える。「最初から一緒にこのフェスを作っている仲間を紹介します」と言ってSalyuを呼び込むと、最後の曲は「to U」。慈しむように言葉を、メロディを3人が紡いでいく様は、そのまま次の『ap bank fes』につながっているように感じられた。
M1. HERO M2. to U
この日の出演者がステージに集合し、オールラインナップで大団円を迎えると、会場後方に〈最後の花火〉が上がった。次々に打ち上がる花火に照らされたみんなの楽しそうな姿に、改めてこう思った。ようやく帰ってきたんだな。開催までの5年間の様々な想いも含めて、記憶される3日間となった。